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2008年10月 2日 (木)

対人関係の課題を解決する7つの手法

特集「嫌な仕事とやる気」の心理学
(PRESIDENT2003.10.13号所収、肩書きは当時のもの、直接執筆したものではなく、編集者とのインタビューが構成された。常の文体と違って「きつい」と記事を読んだ人から指摘された)


対人関係の課題を解決する7つの手法
「アドラー心理学」
つらい職場を楽しくする法

日本アドラー心理学会理事
岸見一郎=文
text by Ichiro Kishimi


 いま、企業の研修やカウンセリングの現場などでも、「アドラー心理学」が注目を集めているという。
 アドラー心理学とは、オーストリアの精神科医であるアルフレッド・アドラー(一八七〇〜一九三七)が創始し、その後継者たちが発展させた心理学の理論と治療技法の体系である。同時代に生きたフロイトやユングが心の深層に関心を持ったのに対して、アドラーは人と人との関係に関心を持ち、対人関係についての多くの研究成果を残している。
 では、どのようにすれば、職場での人間関係を円滑に進めることができるのか、また楽しく仕事に取り組むことができるのか。ここでは、事例に即して、対人関係の課題を克服するための手法をみていこう。


手法1 
「居場所」を
見つける

 ある男性が精神科の医院にカウンセラーとして勤務したものの、人手が足りず、受付もすることになった。不本意ではあったが、どうせやるならと患者の名前と症状を暗記し、電話の「もしもし」という声を聞いただけで、「何々さんですね」と言えるまでになった。
 カウンセリングでは一部の患者としか話すことができないが、受付はすべての患者と接する場所だ。患者全員の症状を把握している男性は、院長からも頼りにされ、スタッフの中でも一番の信頼を得るようになった。不満だった受付の仕事にもおもしろさを覚え、病院における自分の居場所も見い出すことができた。
       
 人間が、基本的な欲求としてもっているもののひとつに「居場所」が感じられるという所属感がある。アドラー心理学には「共同体感覚」という用語があるが、これは、自分のことだけでなく、常に他人のことも考えられ、他人は私を支え、自分も他人とのつながりの中で他人に貢献できていると思える感覚のことである。もし、いまの状況に不満を感じているのであれば、まずは共同体の中で、居場所を探す努力をしてみてはどうだろう。社員に適正な居場所を与えることは、本来は会社の仕事もある。だが、居場所がないと感じるのであれば、自分で居場所を探しだすしかない。
 また、この男性のケースのように、この仕事は自分にしかできない、ほかの誰にも取って代わることができないと思えるように全力投球をすれば、不本意な仕事に思えても、喜びを感じることができる。このときに、仕事の質は関係ない。「受付なんて」と腐っているようでは、その人は伸びていかない。
 

手法2
症状には
「目的」がある
ことに気づく

 一〇年ほど勤めているビジネスマンが、うつ傾向になった。突然、朝起きることができなくなったという。当然、会社へ行くこともできない。ひとりでは外出もできず、カウンセリングへ通うのに、妻が車で送り迎えをしていた。まだ若い人だが、かなりの貯金があり、その額からしても、真面目に勤務してきたことが伺える。もうすぐ子供も生まれるという。
       
 うつ傾向になったこのビジネスマンの「症状」には、二つの「目的」がある。ひとつは、会社へ行かなくてすむということ、もうひとつは、妻の関心をひくことができるということである。
 このように、人がある症状を呈したり、ある行動をとるときには、「原因」ではなく、「目的」を見ていくのが、アドラー心理学の特徴である。たとえば「腹が立ったから怒鳴った」(=原因論)のではなく、実は「怒鳴るために腹を立てた」(=目的論)のである。
 ところが、私たちは、大きな事件が起こると、それがトラウマ(心の傷)になって問題が起こると考えがちである。しかし、同じようなつらい経験をしたからといって、その経験をした人すべてに、将来、問題が起きるわけではない。
 実は、症状の原因を探すことにはあまり意味がない。風邪をひいたとき、内科の医者に風邪をひいた原因を見つけてもらっても、風邪が治るわけではないからである。また、子どもの頃に今の問題の原因があるといわれても、過去に戻って治療できるわけではない。
 厳しい言い方になるが、事例のビジネスマンの場合は、会社へ「行けない=cannot」ではなく、「行きたくない=will not」だけである。まずは、会社へいけない「言い訳」に病気を使っていることに気づくことが第一歩である。

手法3
本当の「課題」に
取り組む

 同期入社の二人のビジネスマンがいた。ひとりは明るく社交的なタイプで、ガールフレンドも多い。もうひとりは、どちらかというとおとなしいタイプで、親しい同僚も少なかった。おとなしい彼のほうは早い段階で、もうひとりのような華やかな路線を歩くことを諦めていたが、仕事ぶりを直属の上司に評価されていることが心の拠り所だった。
 三年ほどして、人事異動が行われた。おとなしい彼が、花形部署へ抜擢されたのである。ところが抜擢後、仕事ぶりが振るわず、不安神経症になった。
 ある症状を訴えてくる患者に質問をする方法には、ふたつのやり方がある。ひとつは「その症状が出てからできなくなったことはありますか?」、もうひとつは「その症状が治ったら何がしたいですか?」というものだ。
 さて、これらの質問に、相手はどのように答えるか。その答えから、回避しようとしている「人生の課題」がわかる。人生の課題というと壮大なもののように聞こえるが、いま直面していて、解決しなければ前に進めない問題ということである。
 このビジネスマンは、「治ったら何がしたいか?」と問われて、「同僚とうまくやっていきたい」と答えた。最初の部署にいるときには、同僚との対人関係はいまひとつでも、仕事ぶりを上司から評価されていることで自分はそれでよいと思えていた。だが、仕事のできる社員ばかりが集まる部署に異動になったために、相対的に彼の仕事ぶりに対する評価が落ちてしまい、心の拠り所を失ってしまったのである。
 さらに聞けば、「不安になるので、同僚と飲みにいけない」という。だが、同僚と飲みにいけないというのは、本当だろうか。飲みにいけない理由を症状のせいしていられる間は、幸せである。もしかしたら、問題は彼の暗い雰囲気にあるのかもしれない。
 おわかりのように、彼にとって症状」は、同僚と飲みにいけない「言い訳」に過ぎない。彼にとっての本当の「課題」は、症状を取り除くことでなく、いかに同僚とのコミュニケーションをよくするかである。

手法4
周囲に対する
「考え方のクセ」を
変える

 タクシーのドライバーの中には、客が少なかった一日を振り返り、「今日はツイてなかった」とぼやく人がいる。
 しかし、トップクラスの成績を収めるあるドライバーによると、彼らにとって本当の仕事の時間は、お客を乗せている間ではなく、空の状態で走っているときだという。どの時間にどの場所にいけばお客が拾えるかを常に考えているようでなければ、売上は伸ばせないからだ。
 
 アドラー心理学には、「ライフスタイル」という用語がある。これは、一言でいえば「考え方のクセ」のようなもので、「自己概念」(自分の自分に対する見方)、「世界観」(自分の周囲に対する見方)、「自己理想」(自分がなりたい姿)という三つの要素から成り立っている。
 さて、この考え方のクセには、健康なクセと、あまり健康でないクセがあり、
たとえば、タクシードライバーの事例で、客を乗せていない状態、つまり他人から見れば不遇の状況でも、その時期を次に備える準備の期間と考える人は、非常に健康的なライフスタイル=考え方のクセの持ち主だ。逆に、自分は運が悪いと考える人は、売上が伸ばせないことを不遇(=自己概念)や、周囲の環境(=世界観)のせいにしている。つまり、責任逃れをしているに過ぎないのである。

手法5
「夢」を活用する

 仕事一筋でやってきた女性が、三〇代後半になって結婚し、家の中に一匹の小猫が迷い込んでくる夢を見た。彼女は猫が好きだった。だが、「飼いたいけど、今は飼うわけにはいかないのよ」と言うと、小猫は家を出ていった。

 アドラー心理学では、その人のライフスタイル(考え方のクセ)を知るために、寝ているときに見た夢や、早期回想(子どもの頃の思い出)を語ってもらうことがある。たとえば、事例の女性の夢の場合は、彼女は子供が好きなのだが、常に仕事が忙しく、年齢的にも高齢出産になるために、精神的に子供を生む準備が整っていないことを示唆している。
 このとき、アドラー心理学では、夢の中にどんな事柄が現れてきたか(事例の場合は猫)を見るのではなく、夢の中でその人がどのように考え行動しているかを解釈するのが特徴である。単語(事柄)でなく、文法(行動)を読むといえばわかりやすいだろうか。
 また、人は起きているときも寝ているときも、同じライフスタイルで生きており、夢の中で人生のシュミレーションをしていると考えるのも特徴である。たとえば約束の時間に遅れる夢を見るとする。そういう人はたいていは遅刻をしない。なぜなら、実際に遅れたときに、自分はどうするのかまで考えがいっていることが多いからだ。そう考えれば、たとえ試験に失敗したり遅刻したりする夢でも、失敗を未然に防ぐためのシュミレーションとして活用することができるだろう。
 実際、夢の中で、遅刻してでも現場に駆けつけようと努力する人は、現実のライフスタイルでも非常に建設的で前向きなはずである。逆に、ネガティブなライフスタイルをもつ人は、遅刻した夢を見たときに「やっぱりダメだ」とあきらめてしまうことがかもしれない。また、そういう人は、こういう夢を見たから遅刻したと、夢を言い訳に利用しがちである。
 
手法6
「現在」を楽しむ

 ある個人酒店の店主には、夢がある。勤めていた会社をやめて、親の商売の跡を継いだが、いずれは趣味の釣具店を開きたいと思っているのだ。だが、彼の口から出るのは、親の老後を見なくてはならないというグチばかりである。

 まず、この店主のグチには「目的」がある。もうおわかりと思うが、グチをいうのをやめたとき、その人は決断をしなくてはならない。つまり、この店主には、釣具店を開く勇気がないのである。
 ギリシャ神話に、シシュポスという登場人物がいる。シシュポスはゼウスの怒りをかい、山から転がり落ちる岩を永遠に運び続けなくてはならないという永劫の罰を受けた。このように何の意味もない仕事を繰り返しやらされたら、人間はすぐに精神に変調をきたす。つまり、一日の大部分の時間を費やしているのは仕事なのだから、仕事そのものが生きる目的にならなくては、つらいだけだ。
 だが、もし「Are you doing what you really want to do ?(本当にやりたいことをやっていますか?)」と聞かれたときに、「No」と答える人は、趣味に生き甲斐を見出し、仕事は趣味を楽しむための手段と割り切るのも手である。ただし、その際、肝心なのは、趣味を真剣に楽しむことだ。いつも、「there and then(あのとき、そこに)」ではなく、「here and now(いま、ここに)」いたい。
 カウンセリングの現場で、早期回想を語ってもらうとき、自分は運の悪い人生を送っていると感じていた人の早期回想が、同じ体験について話しているにもかかわらず、それまでとは違う楽しい記憶として蘇ってくることがある。考え方のクセが変わったことで、その人の過去の捉え方が変わったからだ。実は、現在を楽しむことで、人は「過去」をも変えることができるのである。 

手法7
人生の
「主役」は誰かを
意識する

 あるビジネスマンは、まだ入社二年目にもかかわらず、仕事が退屈でたまらない。難関の国立大学を卒業し、超優良企業といわれるメーカに就職したが、通勤時に、満員電車の窓に映る自分の顔を眺めていると、「定年までこの生活が続くのか」という気持ちに襲われるという。

 最近、自殺未遂をした大学生に理由を聞いたところ、「これから四〇年も同じ生活を続けるのが嫌だった」という記事を読んだ。二〇歳そこそこで、一生マンネリの状態が続くと考えているのには驚くが、しかし、一流大学を出て一流会社に入れば幸福な人生が待っているというモデルなど、とっくに崩壊している。事例のビジネスマンも、マンネリに陥っているヒマなどないはずだ。実は、マンネリに陥るのは、ぬるま湯に浸かっているだけの現状認識が甘い人間である。
 言い方を変えれば、マンネリ感を覚えのは、厳しい現実を認識する勇気がないために、人生全体にぼんやりとした光しか当てていないともいえる。そのために、遠い先まで見えるような気がして、マンネリを感じるのである。そんなときは、いま現在の自分の姿に、もっと強い光をあててみてはどうだろうか。
 舞台で強烈なスポットライトを浴びている俳優には、ライトが眩しすぎるために、客席が見えない。いまは人生のリハーサルではない。本番なのである。しかも、この舞台の主役はほかならぬ、あなた----。幸福の鍵を握っているのは、あなた自身なのだ。

●きしみ・いちろう 一九五六年、京都生まれ。八七年、京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。専門の哲学に並行して八九年よりアドラー心理学を研究。著書に『アドラー心理学入門』他、アドラー関係の訳書多数。

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