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2008年9月 7日 (日)

後世に残すもの

『露の身ながら―往復書簡 いのちへの対話 (集英社文庫)』

 免疫学者の多田富雄と遺伝子学者の柳澤桂子の往復書簡。柳澤は長年、原因不明の病気で病床に就いていたことは知られている。多田も先に『寡黙なる巨人』を紹介した時に書いたように、脳梗塞で療養中である。とはいえ二人とも膨大な仕事をし、メッセージを発信している姿に敬服する。多田は左手だけで長い時間をかけ、キーボードを打つ。一通のメールを打つだけでも何日もかかり、共に病が高じてメールを書くこともかなわず、数ヶ月のブランクがあることも稀ではない。
 多田が、死を考える時、いつも自分がいなくなった後の世界を想像する、と書いていることが僕の注意を引いた。
「はじめは私の死を嘆いている子供や孫の痛ましい姿が見えて悲しいのですが、しばらくすると、私も知らない若い人たちが楽しそうに暮らしている世界が見えてきます。自分はいないが、世界は平和に繁栄している。それは心を慰めるものです」(p.183)
 もとより今の世界は平和どころではない。だからこそ、病床から、多田も、そして柳澤も今の世界の現状をそれぞれの専門を踏まえ、粘り強く議論している姿に心動かされた。病気の渦中にあると、自分のことに目を向けるだけで精一杯であってもおかしくはないのに。

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