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2008年9月12日 (金)

書を捨てて

沢木耕太郎『深夜特急〈1〉香港・マカオ 』(新潮文庫)

 仕事とは関係のない本を読みたいと思いながら、読み始めたら、結局、線を引いたり、付箋をつけたりして、書く時の参考にしようと思っているところがあって、読書を楽しめない。そんな時に読んだ本。
 インドのデリーからイギリスのロンドンまで乗り合いバスで行くことを思い立った26歳の著者が、すべての仕事を投げ出して旅立った。文庫で6冊もあるがすぐに読むことができた。
 仕事に関係のない本のはずだったのに、実は『アドラーに学ぶ』にはこの本を引用してしまった(pp.97-8)。旅先で関わった人を疑い、後に真意がわかり悔やむという話は何度か出てきた。
 この本のことは名前だけは知っていたが、縁がなかったのだろう、手にすることはなかった。それなのになぜふいに読もうと思ったのかといえば、よく仕事を持って立ち寄る喫茶店である日ドイツ語の本を読んでいた時に、店の人に突然「ドイツ語ですね」と問われ驚くということがあったのである。聞けば、大学でドイツ語を学んでいるということだった。それから数ヶ月して店を辞めるという。大学を休学して一年ドイツに留学するというのである。またどうしてそんなことを考えたのですか、とたずねないわけにいかなかった。その話の中に『深夜特急』が出てきた。小田実の『何でも見てやろう』、金子光晴の『どくろ杯』『ねむれ巴里』(後者は僕の本に引用した、p.169)に並んで『深夜特急』に影響を受けたというのである。すぐに行動に移せるのは若い人の特権だろう。
 『深夜特急』は、旅から終わって15年以上かけて書き上げられた。どんな経験も経験するだけでは意味がなくて、時間をかけて発酵する必要があるのだろう。

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読書」カテゴリの記事

コメント

 私は読書をする様になったのは遅いのですが、その最初のころに読んだ本の一つで旅行に興味があったので印象に残っている本です。旅が終わって15年以上かかってかきあげられたとは、初めて知りました。その後、映画(ドラマかも?)もみました。本当に本と同じように旅をしているようなドキュメンタリーのようで、臨場感たっぷりで見ていました。俳優さん(大沢たかお、だとおもいます)もかっこいいです。バックパッカーのような旅をする人たちには今もバイブルみたいな本なのでしょうね。

投稿: mari | 2008年9月12日 (金) 23時16分

mariさん
 映画があるのは知りませんでした。僕にはとてもこんな旅はできないと思いましたが、きっとたくましくなれるでしょうね。こわいもの知らずという亜hか。

投稿: 岸見一郎 | 2008年9月12日 (金) 23時26分

 映画ではなく、テレビのドラマでした。自分であんな旅をすることは今後もないと思いますが、いつか子供たちがやりたい、といいだしたらその時は子供たちに世界を自分の目で見てきてほしいとは思いますが、自分がする以上に心配になるだろうなあ、と思います。今の若者もあんな旅をしている人は多いようですが、親の送り出す勇気に感心します。

投稿: mari | 2008年9月13日 (土) 15時09分

私も今は発酵中のような気がします。
最後まで発酵して、生活の一部になるといいな。

投稿: そらまめ | 2008年9月13日 (土) 15時34分

mariさん
 いざとなったら、今の決心はひるむかもしれませんが、行くと決めた子どもを止めるのは、むずかしいでしょうね。

投稿: 岸見一郎 | 2008年9月13日 (土) 20時49分

そらまめさん
 そうなるといいですね。あせらなければ発酵します。

投稿: 岸見一郎 | 2008年9月13日 (土) 20時50分

最近、素敵な人(年上の女性です)との再会があり、ちょっと先のことを考えるようになりました。
でも、『あせらないこと』を、忘れないようにしておきます。

投稿: そらまめ | 2008年9月13日 (土) 22時31分

そらまめさん
 他者が自分(の人生)を変えるということの意味をよく考えるようになりました。

投稿: 岸見一郎 | 2008年9月14日 (日) 03時17分

 あせる、と、急ぐ、は同じスピードに関する単語だと思いますが、あせっても何かを早くやれる、ってことはないのはどうしてでしょうか?あせると空回りが多くなるのでしょうか。Festina Lente という言葉を教えていただいたのを思い出しました。(忘れてたということですが^^;)どうして、発酵には時間がかかるのでしょうか?人生の達人になればなるほど、早い発酵ができるようになるのでしょうか?

 一時期に比べて、若者の海外旅行率が下がっているそうです。行きたい、といったらとめないでしょうが、そっと返送して後をつけて行きたくなりそうです。でも、たくさんの日本の若者にも若いときにいろんな国を見てきてほしいなあとも思います。

投稿: mari | 2008年9月15日 (月) 00時02分

 電車の中で走るようなものだからです。電車の中で走ってもそのことで目的地に一秒も早く着くということはありません。発酵になぜ時間がかかるのかはわかりませんが、早く発酵させることにはあまり意味はないとはいえるでしょう。そういうのは発酵とはいわないでしょうし。達人(がいれば)はもっともゆっくり発酵する人ではないかと思います。
 早く子どもさんから自立してくださいね。
 

投稿: 岸見一郎 | 2008年9月15日 (月) 01時26分

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